音程と音色は、別ものではない――ヴァイオリンの『一点』

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 各人の進捗に合わせた課題をレッスンしています

ヴァイオリンに聴診器を当てる――音程と音色の響きを探る

答えられない問い――指導の現場で

 「音程悪いと話にならない」

 これは、ヴァイオリンを学ぶ者であれば、誰もが知っていることです

 指導者であれば、誰もが口にしている言葉です

 

 しかし、考えてみてください。

 同じ音を弾いているはずなのに、

 響かないときと、楽器全体が美しく鳴りきる瞬間がある。

 そうした経験をしたことはないでしょうか。

 

 実はこの差は、音程から生まれています

 つまり、音程音色は、別のものではないのです

 

 「なぜ音程を正しくすると、音色も美しくなるのか」

 この問いに、即座に、確信をもって答えられる指導者は、実は多くありません。

 

 そして、答えられないままに指導を続けているとすれば

 ――それは、ヴァイオリン指導で最も大切なことを、

 指導者自身が知らず、生徒にもまた教えられていないということです

 

音程よりも音色?――誤解の蔓延

 「音程よりも音色」――指導の現場でこう語られることがあります。

 それどころか、考えるまでもなく当然のことだとされています

 

 「音程はある程度でいい。それよりも音色

 「音程を気にするのは初心者のすることだ」

 「アマチュアは、正しい音程よりも、まずは取り敢えずの音で

  止まらず弾き通すことだ」

 

 一見、現実的な助言のように聞こえます。

 しかし、これらの言葉に共通しているのは、一つの根本的な誤解です

 それは、音程音色を、別のものとして捉えてしまっているということです

 

 けれども音程音色は別のものではないのです

 同じ音でも、ある特定の音程に定まったとき、

 はじめて楽器全体が共鳴し、美しい音色が響く。

 これは単なる感覚的な印象ではなく

 ヴァイオリンという楽器の構造に根差した物理的な現象です

 

 音程が「だいたい合っている」状態と、楽器全体が共鳴する状態とでは、

 響きはまったく別のものになります。

 この、楽器全体が共鳴する状態とは何なのでしょうか?

 

楽器全体が鳴りきる『一点』

 ヴァイオリンには、楽器の個体差を超えて、全体が共鳴し、

 倍音が豊かに響き合う瞬間があります。

 それこそが、『一点』です

 そして、この『一点』を奏でた時に、楽器全体が鳴り出すのです

 この物理現象は、いかなる計測機器でも数値として捉えることができません。

 なぜなら、『一点』とは単音の周波数の高低ではなく

 楽器全体が共鳴し、倍音が複雑に響き合う、複合的な物理現象だからです

 だからこそ、それは、その場で鳴っているヴァイオリン響き

 耳で聴き分けることよってのみ、見極めることができます。

 

 では、この『一点』を外したまま弾き続けると、どうなるのでしょうか?

 

 たとえ音が出ていても、それは混濁した響きが鳴っているに過ぎません。

 左手は、響き悪い音程に固まっていきます。

 右手は、鳴らない音を鳴らそうとして、いつしか無用な力を帯びていきます。

 その力は、積み重なるほどに、奏者の指・腕・身体への負担となり、

 やがて不調を招きます。

 

 そして、思うように上達できないのも、才能がないからではありません。

 『一点』を外した状態で身体が動き続けることで、

 誤った奏法としての動きが、脳と身体に積み重なっていくからです

 

 逆に言えば――『一点』が定まった瞬間から、

 身体は本来の動きを取り戻し、演奏技術は急速に上達します。

 熟練の奏者が不調なく演奏を続け、巨匠が長く第一線で活躍し続けられるのも、

 『一点』を捉え続けているからです

 

音程だけ別に習う」という誤り

 こういう相談をいただくことがあります。

 

 「今の教室レッスン受けながら、

  音程の取り方だけ教えていただけますか」

 

 気持ちはわかります。

 音程に悩んでいる。しかし今の教室はやめたくない。

 ならば、音程だけを別の場所で習えばいい――そう考えるのは、

 自然なことかもしれません。

 

 しかし、ここで立ち止まってください。

 

 『一点』を求めることは、音程の矯正と習得に留まるものではないのです

 一音いちおんに『一点』を求め続けることで、左手運指が整い、

 右手の運弓が導かれ、ポジション移動が安定し、ビブラートが豊かになる。

 『一点』響きが流動を生み、フレーズが自然に連なり、音楽になる。

 身体全体が、響きへと向かっていく過程そのものです

 

 『一点』の追求は、身体全体の動きや、あらゆる奏法に深く結びついています

 「音程だけを切り離して別に習う」という形では、

 身体の動きは一つの方向に定まらず、技術も音楽も十分に育ちません。

 

楽器の整備もパーツも、『一点』が導く

 当教室に来られる方は、趣味で学ばれる方から、音大生プロ奏者、

 指導者の方(ヴァイオリン先生)に至るまで、例外なく

 楽器・弓・弦・松脂の選択と整備について、

 明確な判断基準をお持ちでない状態でいらっしゃいます

 

 高額な毛替えをした弓。

 有名な工房に立ててもらった駒。

 有名な職人に調整してもらった魂柱。

 プロオケのコンマスに勧められた松脂

 ネットで評判の弦。

 

 その多くは、信頼できると思われる情報をもとに、誠実に選ばれてきたものです

 ですから、それ自体が悪いわけではありません。

 しかし、『一点』をより見極めやすくするという観点に立ったとき、

 その選択は必ずしも最適ではないのです

 弦や松脂を替えることで得られる変化は、あくまで

 「鳴っていない状態の中での音の違い」に留まります。

 『一点』は、楽器が「鳴りきるか、鳴りきらないか」を分けるものです

 

 では、楽器と弓を整備し、『一点』を見極めやすい駒・魂柱・弦・松脂へと整えると

 どうなるのか。それは必然として、ヴァイオリンの製作と調整において長年培われて

 きた寸法と理論に沿ったものになるのです

 

 だからこそ、当教室ではレッスンに先立ち、『一点』 が見極めやすいかどうか

 という観点で、まず楽器と弓の整備を行い、弦・松脂の選択を見直すことから

 始めます。

 (→『導入4段階について』)

 

 そのうえでレッスンが始まると、皆さん驚かれます。

 『一点』を見極め続けることで、単に正しい音程奏でるだけではなく

 それにより美しい音色響きがもたらされるのです

 そしてレッスンを続けるほどに、あらゆる演奏技術が統合的かつ

 急速に上達するだけでなく、音楽表現に至るまでもが

 自然で豊かなものへと変化していく――その事実に、さらに驚かれます。

 『一点』を目指して奏で続けると、左手の運指も、ビブラートも、

 右手の運弓も、音色の美しさも、ポジション移動も、音楽表現までもが、

 自ずと本来あるべき姿へと統合的に導かれていきます。

 

 では、なぜこれほど多くの指導者が、『一点』知らないまま

 指導し続けてしまっているのでしょうか。

 

『一点』知らない指導――その発生と連鎖

 生徒が『一点』を峻厳に見極めるよう導く指導には、指導する側の

 圧倒的な耳の能力と、一音いちおんに向き合う膨大な手間暇が必要です

 学習者が急増し、指導の効率化が求められる時代の中で、

 この指導は失われていきました。

 音楽大学においてさえ、今やこの奏法は教えられなくなってしまいました。

 音楽大学を出ていても、プロとして活動していても、

 『一点』知らないまま指導者になってしまっている者が少なくありません。

 その連鎖が、世代を超えて続いています

 誰かの怠慢ではなく、構造そのものの問題なのです

 

 その結果、誠実な指導者こそ、誤った指導をしてしまいます

 熱心な学習者こそ、誤った練習をしてしまいます

 では、その誤りとは何か。

 

 チューナー音程を管理すること

 エチュードを全順番に弾き通させること

 まず弾き通してから音程を後で直すこと

 これらは今日、広く一般的な指導法として行われています

 しかし、広く行われていることが、正しいとは限りません。

 

 チューナーが測れるのは、単音の周波数の高低という一次元の数値に過ぎません。

 ヴァイオリンが個体差を超えて全体で鳴りきる『一点』は、

 どれほど精密なチューナーでも捉えられません。

 録音された音源もまた、収録技術の限界ゆえに『一点』響きを伝えません。

 ピアノの鍵盤もまた、『一点』を示すことはできません。

 チューナーを基準にした練習を重ねるほど、

 『一点』を耳で求める機会そのものが失われていきます。

 

 エチュードを全順番に弾き通させることは、

 学習者が今まさに必要している課題を見極めることなく

 必要な薬も不要な薬も区別なく飲み続けさせることと同じです

 全を弾き通すことで集中力は散漫になり、

 一音いちおんに対する峻厳さが失われていきます。

 まず弾き通してから音程を直すという方法もまた、順序が逆です

 誤った音程は繰り返すほど脳と身体に刻み込まれ、

 刻み込まれるほど修正は困難になります。

 

 こうした指導の中で、弾き熟す(こなす)こと上達と勘違いさせてしまう。

 しかし『一点』知らないまま弾き熟すことは「演奏」ではありません。

 濁った響きで弾き散らかすだけの「作業」に過ぎないのです

 基礎なく弾きまくるほど、やがて技術は限界を迎え、身体も限界を迎えます。

 最初の一音から『一点』としての正しい響きを求め続けることこそが、

 上達への唯一の近道なのです。

 

 この『一点』の継承は、アウアーからシフェルブラット鷲見四郎先生へと

 受け継がれてきた系譜のなかにあります。その四郎先生への指導も傍らで見続け、

 歴史的名教師となったのが鷲見三郎先生です。

 四郎先生は、日本音楽コンクール初代優勝の際にメンデルスゾーンの

 ヴァイオリン協奏曲を演奏されました。

 私は三郎先生、四郎先生の両先生に師事しましたが、四郎先生から受け

 レッスンでは、そのメンデルスゾーン協奏冒頭の「シ」の音に存在する

 5種類の『一点』の弾き分けだけで、数時間に及びました。

 「○○に師事」という一行は、プロフィールに容易に記載できます。

 しかし「名前を受け取ること」と「音を受け取ること」は、別のことです

 『一点』は、文字にも録音にも残せません。

 耳から耳への継承にしか受け継がれないものです。

 (→『軌跡の人』)

 

なぜ指導者が、習いに来るのか

 「何かが違う」

 そう感じながら、指導し続けてはいないでしょうか。

 

 生徒が上達しない。音程直しても、また戻る。音色が変わらない。

 教本通りに教えているはずなのに、何かが届いていない。

 

 指導者は通常、他の教室に習いに行くことはありません。

 それでも、長年抱えてきた疑問の答えがここにあるのではないか。

 そう期待して、指導者ヴァイオリン先生)が当教室に通い続けています

 

 そしてここで『一点』という回答の存在を知り、その実際を目の当たりにする。

 『一点』はあらゆる音符に存在し、同じ音符に対しても複数存在します。

 その選択と見極めを学ぶほどに、ヴァイオリンのあらゆる技術との関連が

 見えてくる。

 

 指導者『一点』を知ることで、その教室に集うすべての生徒の耳も、

 指導者とともに育ち始めます。

 一人の指導者が変わることで、その指導者のもとに集うすべての人の演奏が変わる。

 だからこそ、学び続けているのです

 

 ここで増えるのは、知識ではありません。

 その場で鳴っているヴァイオリン響きの中にのみ確認される『一点』

 その存在の明確化と、あらゆる技術への波及こそが、

 ヴァイオリン本来奏法を学ぶレッスンで希求されることの総てだからです

 

 「何かが違う」という違和感を、そのままにしないでください。

 その違和感は、正しい感覚です

 その感覚こそが、指導者を当教室へ向かわせる。

 そしてその響きの変化は、あなたの教室に集うすべての人へと広がっていくのです

 

 当教室には、趣味で学ばれる方から、音大受験を目指す方、音大生

 コンクールを目指す方、プロ奏者、そして指導者(ヴァイオリンの先生)まで

 通われています。

 「何かが違う」と感じているのは、あなただけではありません。

 (詳しくは『初心者から音大生・演奏者まで』のページをご覧ください) 

 

音程の追求が、すべての技術の源泉である

 ヴァイオリンは、正しい音程奏でると美しい音色響きます。

 ヴァイオリンで、正しい音程の取り方を教えることは、指導の総てです

 ヴァイオリンで、正しい音程の取り方を習うことは、レッスンの総てです

 

 そしてヴァイオリンにおける音程音色は、別ものではありません。

 音程の追求こそが、音色を生み、すべての技術を育てる。

 その源泉を知る指導のもとでこそ、学習者は本来上達を手にすることができます。

 

 それをチューナーまかせにすることピアノ取ること。音源を聴かせること

 勘と経験に委ねること。とりあえず弾き通させて、後から直せばいいとすること

 それではそもそも、ヴァイオリンレッスンをしていないとさえいえるのです

 

 ある日突然、これまでにない響きが鳴りきる瞬間が来る。

 そうした経験をされた方もいるかもしれません。

 それは偶然、『一点』を踏んだ瞬間です

 しかしその響きなぜ生まれたのかを知らなければ、再現はできません。

 

 『一点』は物理法則によって定まるものであり、正しい指導のもとで

 一音いちおんと向き合い続けた者にのみ、

 その瞬間が再現可能な確信として根付いていきます。

 それは一度や二度の指導で習得されるものではありません。

 そしてそれは、学習者が学ぶだけのものでもありません。

 指導者もまた、『一点』を知ることで初めて、本来指導者になれるのです

 

 イワモト ヴァイオリン教室では、響きを聴き分ける耳を育てながら、

 一音いちおんに『一点』を求める指導行っています

 趣味で学ばれる方から、音大生プロ奏者、指導者ヴァイオリン先生)まで、

 通われています

 

 学習者の方も、指導者の方も――「何かが違う」という違和感を

 抱えているなら、その違和感を出発点にしてください。

 

 決断は、今です。

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